研究概要 |
ラミニンの機能ペプチドを化学的にキトサン膜に結合し、基底膜様の作用をもったペプチドマトリックスの創製を目的に研究を遂行中である。本年度は主に、機能ペプチドを単独あるいは組み合わせてキトサン膜に結合させ、その上に表皮、神経、血管内皮、線維芽細胞など異なった由来の株細胞を加え生物活性を測定した。ラミニン-1のペプチドスクリーニングから同定された約20種類の中で、A13, A99, C16, AG73など活性の強いペプチドをキトサン膜に化学的に固定化したところ、A99を結合させたキトサン膜上ではインテグリンを介して、AG73を結合させたキトサン膜上ではシンデカンを介して細胞に接着することが分かった。つぎに、これらのペプチドの複合体を作成することによって細胞接着や神経突起伸張などの作用が増強されると考え、複数のペプチドを結合させた複合体を作成したが、顕著な増強効果は得られなかった。しかし、キトサン膜上に複数のペプチドを結合させたペプチド-キトサン膜を作成したところ、1種類のみのペプチドを結合させたものに比べ、細胞接着や神経突起伸張の顕著な増強効果がみられた。これは、各々のペプチドがそれぞれ特異的なレセプターを介して細胞に対して作用することにより、活性が増大されたことによると考えられる。これらの研究によって、人工基底膜としてのべプチド-キトサン膜の創製のための基礎が確立できつつある。これらの研究結果は、Katoら、Biochemistry, 41 : 10747-10753, 2002 ; Yamadaら、FEBS Letters, 530, 48-52, 2002 ; Mochizukiら、FASEB J.印刷中(2003)に報告した。今後、複数のペプチドを結合させたペプチド-キトサン膜を用いて、細胞膜上の種々のレセプターに及ぼす影響を測定していく予定である。
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