研究概要 |
致死性の虚血・再灌流不整脈である心室頻拍(ventricular tachycardia, VT)や心室細動(ventricular fibrillation, VF)は心臓突然死の主因として考えられている。とくにVF時においては、心拍出量がほぼなくなり、体循環および冠循環ともに停止する。VFは、稀には正常心から発生する場合もあるが(突発性VF)、心虚血や心筋症によるVTから移行する場合が多い。これまで、このVT/VF遷移現象の解明を目的として多くの研究がなされてきたが、未だ解明されていない。本研究は、「心機能のマクロ的現象であるVT/VFダイナミクス遷移が細胞内オルガネラであるミトコンドリアによって制御されている」という独創的な仮説の検証を目的としている。本年度は、ラット・ランゲンドルフ灌流心を用いて、VT/VFダイナミクス遷移とミトコンドリア・カルシウム取り込み活動の変化との機能的連関の立証を目指した。その結果以下に述べる成果が得られた。 心室筋のburst pacingにより、pacing終了後にも長時間持続する心室頻拍(VT)や細動(VF)を誘発することが出来た。VT, VFの同定は、心室筋・筋電図およびそのFFT解析や左心室圧波形解析により行った。刺激停止後にも持続するVF時において、ミトコンドリアのカルシウム取り込み活動をruthenium redあるいはRu360で阻害することにより、VFからVTへの可逆的な遷移が生じた。一方、ミトコンドリアのカルシウム取り込み活動を活性化するspermineの灌流によっては、VTからVFへの可逆的な遷移が認められた。以上の結果は、ミトコンドリア・カルシウム取り込み活動の変化がVT/VFダイナミクス遷移に関与していることを示唆している。
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