研究概要 |
本年度ではまず,過飽和な空孔の凝集を利用して,金属間化合物表面をメソポーラス化させるプロセスについて検討した.B2構造を有するFeAl金属間化合物に対して,単ロール式液体急冷法を用いて急冷凝固薄帯を作製した.その後,450℃で1時間程,真空中で熱処理をすると,表面がメソポーラス化することを見い出した.この現象は,過飽和に凍結された熱空孔が,表面近傍で凝集するためであると解釈された.そこで次にFeAl金属間化合物の単結晶を作製し,水焼入れによってこのメソポーラス化現象が制御可能であるかどうかを検討した.その結果,水焼入れ温度が上昇する,すなわち過飽和凍結空孔量が増加するにつれて,表面ポアーのサイズは小さくなり密度が増加することを見い出した.1000℃から水焼入れした場合,平均ポアーサイズはおよそ15nm程度であった.また,水焼入れをしなかった場合,あるいは水焼入れ後に表面近傍に加工歪みが残留している場合には,いずれも表面ポアーの生成は観察されなかった.このことは,このメソポーラス化現象が,過飽和凍結空孔の凝集によるものであることを明確にしている.ポアー形状は表面方位に依存しており,例えば表面方位が{111}である場合,ポアー形状は正三角形である.これは,ポアー表面が{100}面であることと対応している.以上のような現象は,他にB2型金属間化合物であるNiAlやTiCoでも観察され,様々な合金系に広く応用可能であることが示された.一方本研究では,最終的には機能性タンパク質であるレクチンを,メソポーラス金属間化合物表面のメソポアーの中に植え付けることを目標としている.そこで,レクチンと金属がチオール反応によって結合可能となるよう,システイン残基をタンパク質工学的に導入することを試みた.その結果,適切な場所にシステイン残基を導入することに成功し,今後三次元的立体構造構築の可能性が得られた.
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