研究概要 |
温度応答性のN-イソプロピルアクリルアミド(IPと略す)、正荷電のN, N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(DAと略す)、疎水性のブチルメタクリレート(BMと略す)の3つのモノマーから成るランダムコポリマーを3種類合成した。DAのモル割合は7〜27%、BMのモル割合は5〜16%、残りはN-イソプロピルアクリルアミドであった。分子量は6.0〜7.5万である。また、ポリマーの相転移温度は28〜29℃であった。これらの3種のポリマーとセンダイウイルスを緩衝液中で2時間混合した後、サル腎細胞LLCMK2に対する感染価を測定したところ、DAの27%でBMの16%のコポリマーを37℃でセンダイウイルスと混合した場合のみ、感染価が1/1000以下に減少した。このポリマーでも4℃でセンダイウイルスと混合した場合は、感染価は減少しなかった。また、ポリリシンやN-イソプロピルアクリルアミドとDAのみの2成分からなるポリマーでは37℃、4℃どちらの温度でも感染価は減少しなかった。以上のことから、適切な組成のコポリマーと接触させることでウイルスの感染価が劇的に減少し、それが温度応答性のこのコポリマーの凝集挙動と関連していることがわかった。 また、このウイルス感染価の減少の度合いは、37℃でコポリマーと接触させる時間(1時間〜4時間)に依存していることが観察された。一般に、有機溶剤や界面活性剤によるウイルスの不活性化は接触のごく短い時間で完了することが知られており、現にセンダイウイルスをSDSで処理すると1時間以内に不活性化は完了する。よって、このポリマーは従来知られているウイルス粒子の破壊機構とは異なり、高分子との相互作用を通しての新規なウイルス粒子破壊を示唆していると考えられる。
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