本研究は、舞台芸術の身体表象とその演出を分析対象としている。3年間の研究期間のうち、初年度(昨年)には世界の中の日本に焦点をあてて、コンテンポラリー・ダンスの分野における民族、文化と身体が切り結ぶ問題について取り上げた。そこで、2年目にあたる本年度の研究では、主に西洋の舞台芸術を対象とした。この研究のため、科研費補助金の援助を得て夏期と冬期の2回にわけて調査旅行に赴き、フランスの国立図書館付属パリ・オペラ座図書館で研究・調査を行った。 具体的研究課題は、次の通りである。一つ目はルドルフ・ヌレエフが振付・演出家として活躍していた時代のパリ・オペラ座バレエ団のレパートリーについて。2つ目は18世紀以降の舞踊記譜法について。いずれも日本では未発表の仏語・英語文献を現物調査し、数多くの新しい知見を得ながら研究を行った。前者(ヌレエフ)については、別紙の通り、「振付家ルドルフ・ヌレエフの業績」という研究論文にその成果をまとめた。また後者(舞踊記譜法)については来年度、本研究者が監修責任者として身体のテクノロジーに関する知見や分析をとりまとめ、他大学の研究者とともに共著のかたちで刊行の予定である。 本年度は各種国際学会への参加申し込みが集中する期間にSARSのための渡航自粛があり、論文を提出して国際学会発表のための審査を受けることは自粛せざるを得なかった。夏には渡航自粛が解除されたものの、そのころには本年度内の国際学会発表の受付はほぼ終了していた。このような国際情勢のため、今年度は研究実績を国際学会等で発表する機会を失してしまったが、さしあたり、来年度(2004年度)5月の国際演劇学会(サンクトペテルブルグで開催)と7月の国際美学会(リオデジャネイロで開催)については、審査に通ったとの通知を既に受け取っている。今年度の研究成果を含めて、両国際学会にて発表を行う予定である。
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