研究課題
本研究の最終年度にあたる本年度の調査では、昨年度までの調査成果に基づいて、カナダのヌナヴト準州のクガールク(旧名ペリー・ベイ)村においてフィールド・ワークを実施し、以下の項目について現地のイヌイトの古老と熟練ハンターに聞き取り調査を行い、極北の環境に関するイヌイトの民族科学的知識について調査を行うとともに、これまでに収集した情報のとりまとめを行った。(1)野生生物の分布と季節移動、野生の動植物それぞれの種に関するイヌイトの民族科学的知識。(2)地名で表された約200箇所の場所の生態環境に関する民族科学的知識。(3)海氷や積雪、年間の気象サイクルに関するイヌイトの民族気象学的知識。以上の調査によって、イヌイトの極北の環境に関する民族科学的知識について以下のことが明らかとなった。(1)イヌイトの民族科学的知識は地名を核に組織化されており、この知識を環境管理に活かすためにはまず、地名ごとに整理・記憶されている知識を地名ごとに記述し、そのテータベースを作成する必要がある。(2)イヌイトの民族科学的知識の基本構造となっているのは、生業活動域に張り巡らされている地名のネットワークであり、その地名のネットワークが、知識の交換や伝達、蓄積にあたって重要な役割を果たしている。(3)地名のネットワークによって組織化されたイヌイトの民族科学的知識は、広域にわたる野生生物の共生関係を動態的に把握する能力に優れており、野生生物の持続可能な利用と管理に欠かせない情報を提供する。(4)イヌイトは過去約50年にわたる動植物の分布や季節移動ルートの変動、気象サイクルの変動などの環境の変動を詳細に記憶しており、この知識は極北の長期にわたる変動を解明するための研究に重要な貢献をなす。(5)過去約50年間で気象の温暖化が進んでいるとともに、気象サイクルに大きな乱れが生じつつあり、野生生物の分布と移動ルートの変化は、これらの気象条件の変化と関係がある。また、このフィールド調査に先立って、極北人類学の現在の動向の中に本研究を位置づけるために、カナダのエドモントンにあるアルバータ大学の極北研究所において、イヌイトの民族科学的知識に関する研究の最新情報を収集した。さらに、調査地のクガールク村の小・中・高校とアークティック・カレッジで、3回にわたって公開の調査報告会を開いて調査の成果を公表するとともに、本研究に対する評価を受けた。
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Indigenous Use and Management of Marine Resources(Senri Ethnological Studies) 67
ページ: 323-344
季刊生命誌 41(印刷中)
Correlations between Ecological, Symbolic, and Medical Systems in the Construction and the Distribution of Body Resources(edited by K.Sugawara) (印刷中)
野生のナヴィゲーション(野中健一編)(古今書院)
ページ: 55-90
ことばと反復2(言語文化共同研究プロジェクト2003)
ページ: 1-14
『海洋資源の利用と管理に関する人類学的研究』国立民族学博物館調査報告 46
ページ: 73-100