本研究は、1945年以後のオーストリアと日本の戦時期についての「記憶」のあり方を比較・検討し、過去の記憶の表象について実証することを目的としている。そのため今年度は、第一に、記憶の理論について、文化史的、脳神経学的、社会心理学的なアプローチから体系的な整理を行った。その結果次年度以降は、記憶の「複数性」及び「可変性」並びにその「政治性」の議論をさらに探求し、「戦争の記憶」に関する理論的枠組みを確立する必要性を認識した。また「マウトハウゼン元強制収容所跡記念施設」の歴史について史料調査・解析し、オーストリア社会の戦争をめぐる「集合的記憶」の形成過程を考察した。その成果は「関西ドイツ現代史研究会10月例会」(2002年10月27日)並びに「記憶と記録研究会」(2003年3月21日に開催予定)において発表した。また2003年4月発行予定の「言語文化プロジェクト2002』に小論を掲載予定である。さらにオーストリア現代政治の動向に鑑みて、同国の歴史認識について「新右翼の台頭」という観点から考察した。その成果は立命館大学連続講座におけるコメントの中で発表、また同大学紀要「立命館言語文化』に掲載予定である。また2002年12月には学外から研究者を招聘し第一回ワークショツプを行なった。最後に日本の戦争の記憶に関しては、「批判と連帯のための東アジア歴史フオーラム」に参加し、東アジア研究者との意見交換を行なってきた。その過程で「戦没者とは誰か」を特定する際に見られる困難が、社会的記憶の複雑な様相を例証することを確認した。加えて靖国神社等を訪れて戦没者の慰霊行為とアイデンティティ形成の関係について調査した。次年度以降も例えば「軍港・引揚港」としての舞鶴や「特攻隊」の歴史を持つ知覧など実際に訪れる予定である。以上今年度の成果をふまえて日本・オーストリア両国の「記憶の文化」について政治文化史的かつ時空間の文脈で捉える立体的な歴史研究を推進する。
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