本研究は、1945年以後のオーストリアと日本の戦時期についての「記憶の文化」の諸相を比較・考察し、過去の記憶を時代背景に応じてどのように表象し、伝達してきたかについて、記憶の文化形成の歴史的メカニズムを実証的に研究することを目的としている。そのため今年度は、昨年度の記憶の理論の整理をさらに深め、祝祭空間、慰霊空間の形成とそこに顕彰される記憶文化を検討するための理論的アプローチを確立することを試みた。他方、昨年度の実績を踏まえて、記憶の「複数性」及び「可変性」並びにその「政治性」の議論をさらに探求し、戦後社会に見られる「戦争の記憶」に関する考察を進めた。そこで扱ったテーマは「マウトハウゼン元強制収容所跡記念施設」の歴史に加え、戦没者の追悼について、在郷軍人会の歴史、銃後の記憶などであり、国民化の過程に果たした歴史的役割についての調査を開始した。そうした研究の過程で、1945年以後に「オーストリア国民」という「想像の共同体」が形成される際に、「オーストリア」的な国民共同体に先行してみられた「ドイツ国民」的社会の形成を考える必要性があると判明したため、より長いタイムスパンから「ドイツ国民」化のプロセスを視野に入れて「オーストリア国民」社会の形成過程を把握しようと試みた。こうした研究成果は、2003年10月に大韓民国ソウル市漢陽大学において開催された第一回国際ワークショップ「大衆独裁-強制と同意」において発表、韓国メディアにおいて先行出版される予定である(随時、英語及び日本語でも出版される予定)。また、2003年9月28日近代社会史研究会例会においても研究報告を行う一方で、2004年4月発行予定の『言語文化プロジェクト2003』にも論考を掲載する予定である。昨年に引き続いて2003年7月には学外からの研究者を招聘し第一回ワークショップを行ない、第三者による評価を得た。「批判と連帯のための東アジア歴史フォーラム」に引き続き参加し、東アジア研究者との意見交換を行なった。
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