本年度は、前年度までの奨励研究(A)の研究成果を生かして、平和構築活動の理論的枠粗みのさらなる精緻化に努める一方、旧ユーゴスラビアを中心とする地域での平和活動についての資料・情報収集にあたった。必ずしも既存の学術研究で確立されている研究分野ではないため、関連の図書・資料の収集にあたっては、出来る限り広範囲にわたる議論を集積するようにこころがけた。また米国ニューヨークに出張を行い、コロンビア大学や国際連合本部において面談調査を行い、口頭での情報収集と意見交換にもあたった。さらに国内の関連研究者に中間的あるいは部分的な研究成果を渡して、意見を交換し、専門的知識の獲得につとめた。 紛争(後)社会に永続的な平和を構築するための戦略を作るために有益な概念として着目されているのが、法の支配である。法の支配の文化が広まり、法の支配の制度が定着すれば、たとえ社会内に対立が起こった場合でも、武力紛争にまで発展させることなく処理できると期待されるからである。もちろんこのような戦略には、大きな可能性とともに、問題点も含まれている。旧ユーゴスラビア地域のボスニア=ヘルツェゴビナやコソボにおける国際平和活動では、欧米諸国の主導で行われ、法の支配を確立するという戦略をもとにした措置が大々的にとられた。したがってこの地域における平和構築活動における法の支配確立の試みは、他の地域の平和活動について検討するにあたっても、重要な意味を持つ。
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