本年度は、前年度までの研究成果を生かして、平和構築活動の理論的枠組みのさらなる精緻化に努める一方、旧ユーゴスラビアを中心とする地域での平和活動についての資料・情報収集にあたり、さらに実地調査も行った。平成16年1月には、オーストリアでOSCE本部や日本大使館を訪れて現地情勢について意見交換を行ない、その後ボスニア=ヘルツェゴビナで国際機関職員を中心とする多くの方々との面談を行なった。さらにセルビア=モンテネグロではまずベオグラードの日本大使館で現地情勢について意見交換を行ない、その後コソボ自治区に入って国際機関職員を中心とする多くの方々との面談を行なった。同年3月には、コソボでの平和活動と同時期に同じような権限で始まったためしばしば比較の対象となる東チモールを訪れ、やはり国際機関職員を中心とする多くの方々との面談を行なった。同月にはさらにカナダのモントリオールで開かれた国際学会において研究内容を口頭で報告するとともに、専門家の方々との意見交換に勤めた。部分的な研究成果は随時国内の関連研究者に渡して、意見を交換し、専門的知識の獲得につとめた。 紛争(後)社会に永続的な平和を構築するための戦略を作るために有益な概念として着目されているのが、法の支配である。法の支配の文化が広まり、法の支配の制度が定着すれば、たとえ社会内に対立が起こった場合でも、武力紛争にまで発展させることなく処理できると期待されるからである。もちろんこのような戦略には、大きな可能性とともに、問題点も含まれている。旧ユーゴスラビア地域のボスニア=ヘルツェゴビナやコソボにおける国際平和活動では、欧米諸国の主導で行われ、法の支配を確立するという戦略をもとにした措置が大々的にとられた。したがってこの地域における平和構築活動における法の支配確立の試みは、他の地域の平和活動について検討するにあたっても、重要な意味を持つ。
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