本研究は、中国浙江省東南部の蓬渓村、芙蓉村、岩頭村などを対象に、集落の形成過程及び明代の住宅に見られる空間構成や工法の特徴を実測や聞き取りによるフィールドサーベイならびに文献史料の両面から明らかにすることを目的としている。 平成14年度は、蓬渓村を主な対象として徹底的な現地調査を実施した。その成果として、(1)まず集落構造には他の中国都市では見られない水利や風水といった地域独自の空間概念が大きく反映していること、(2)次に村が同一姓の大姓集落であっても家系ごとに地区が分断され、それぞれに土地所有と住宅開発が行われることを明らかにした。そうした中で、(3)中国都市に独特な格子状ではなく迷路状の道をつくり、(4)個々の敷地では塀によって視覚的に空間を区別するのみであること、(5)さらに本家と分家では建築的な差異が見られないものの、斜面の中腹から上に向かって宅地が開発され村全体が形成される過程を見出した。(6)住宅については、とりわけ10件の詳細な実測調査を実施し、軒高、柱間隔、屋根の挙折の場所、柱寸法、建具が明らかに異なる3件を抽出し、(7)同時に『魯班営造正式』や『営造法原』などの文献史料を考察して、それらの特徴がいずれも明代のものと判定するに至った。(8)その過程では4件の宗祠の実測をも行って、その特徴と住宅とを比較し論拠の補足とした。この点で、これまでの明と清との区別をまったくしない中国都市・建築に関する既往研究の枠組みを超えることができた。 全体を通して、これらの村は、北宋成立後、17世紀初期の明末、18世紀中期の乾隆年間、19紀中期の太平天国期に集落構造が変化し、それに応じて同様に住宅の空間構成も変容していることが明らかになりつつある。それには、徹底的なフィールド調査に加え、詳細な地図を入手できたこと、宗譜の閲覧が可能であったこと、浙江大学および上海同済大学、現地の専門家の協力が得られたことが大きな要因としてあげられる。平成15年度では、周辺の集落にも考察の対象を広げ、これらの論点をより明確にしていきたい。
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