研究概要 |
最終年度である本年度は、実験的には高速中性子発生機構の理解に必要な核構造の情報の精緻化を、理論的には広い運動量・エネルギー移行領域での中性子発生機構の統一モデルの構築を行った。 前方角度(低運動量移行)では、ガモフ・テラー遷移により多くの中性子が発生する。発生量はガモフ・テラー遷移強度に比例する。発生機構の精緻化には(1)遷移強度が十分な精度で計算できる事(2)比例係数が十分な精度で求められている事、が要求される。遷移強度については、核子の自由度についてのみ考慮した場合には、モデル非依存のスピン和則(池田和則)により高精度で求められる。問題は非核子自由度の寄与であるが、これについては後述の統一モデルから約12%と求める事が出来た。従って、和則に対して非核子自由度の影響を補正する事によって、遷移強度を高精度で求める事が可能となった。比例係数については、ベータ崩壊から遷移強度が既知の遷移から求める事が出来る。実験的には高分解能が必要で容易ではないが、我々は開発した検出器を高分解能モードで動作させることにより、500keVの高分解能を達成し、比例係数(ガモフ・テラー単位断面積)を約3%の精度で決定した。 後方角度(高運動量移行)では準弾性散乱が支配的となる。ここでも非核子自由度の寄与は、全体の遷移強度(中性子の発生量)に影響する。我々は歪曲波インパルス近似+乱雑位相近似の計算から、低・高運動量移行の領域が統一的に非核子自由度の効果を考慮することにより理解できることを明らかにした。具体的には、核子とデルタ粒子(非核子)の遷移強度を表すランダウ・ミグダル変数g'_<NΔ>として0,3を得た。 これまでに得られた、多段階反応の重要性と、非核子自由度の重要性を両方考慮することにより、広い範囲の中性子発生機構が、スピン自由度まで含めて定量的に理解させるようになった事が本研究の成果である。
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