最近見出された新しい量子効果であるスピントンネル現象が観測される物質の一つであるFe8クラスター([Fe_8(N_3C_6H_<15>)_6O_2(OH)_<12>])の磁気的性質を微視的に調べる目的で、核磁気共鳴法により実験研究を行った。特に、この系の磁気状態をより詳細に調べるためには、磁性イオンであるFeのNMR行うことが極めて有効である。そこで、本研究では、核磁気モーメントを有する^<57>Fe同位体を用い、クラスター中の^<56>Fe元素を^<57>Fe元素に置換した単結晶試料を作成し、^<57>Fe核及び^1H核の核磁気共鳴を行った。以下にその主な結果を記す。 (1)この物質中の^<57>Fe-NMR信号を世界に先駆けて初めて検出することに成功し、観測された^<57>Fe-NMRスペクトルを解析することにより、基底状態S=10のFe8クラスターの内部磁気構造がフェリ磁性的スピン配列していることを明らかにした。 (2)単結晶Fe8クラスターを用いて、外部磁場を分子磁性体の磁化容易軸に垂直方向に印加し、その横磁場効果を調べた。その結果、スピン・トンネル現象に起因する核磁気緩和率の大きな増大を検出した。解析の結果、スピン・トンネルのダイナミックスには、超微細相互作用やクラスター間の双極子相互作用などが大きく関っていることが明らかとなった。 (3)本科学研究費により購入した^3He-^4He希釈冷凍機を用いて、T=40mKの低混まで、ゼロ磁場での^<57>Fe-NMR信号の核スピン格子緩和率(1/T_1)及び核スピンスピン緩和率(1/T_2)の測定を行った。その結果、温度減少に伴い、1/T_1、1/T_2ともに急激に減少し、T=400mK以下ではどちらもほぼ一定の値を示すことを明らかにした。
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