本研究の目的は、特定元素のエネルギー吸収端にあわせた超高輝度・単色硬X線をSTM観察点に入射し、その像の変化をとらえることにより原子分解能で物質表面の状態・組成分析を行うことである。要点は、内殻励起で生じたフェルミ準位近傍の状態密度変化を、トンネル電流の強度変化としてとらえることである。これはSTM探針をコレクターにして放射光励起の放出電子を捉える手法とは根本的に異なり、STM像の差分を観測するものである。 上記の目的には工夫されたSTM装置を開発し、多くの困難を克服する必要があった。初年度に本装置をSPring-8の超高輝度アンジュレータビームライン(以下BLと略)に設置し、絞ったビームを、超高真空で、探針-試料間の測定点に、精度良く、短時間であわせこむ手法を確立した。同時に、超高輝度の照射下でSTMが機能することを確認した。これに続き、今年度は信号測定系の高機能化と、超高輝度X線照射の表面への影響(元素分析以前に前提として重要である)を精査することを行った。 まずSi(111)清浄表面7×7構造について、光照射の有無によりSTM像に大きな変化が生じることがわかった。この照射効果をさまざまなパラメータで測定した結果、当初の予想と異なり、半導体表面においてもこの場合、ほとんどSPV(表面光起電力)効果が効いていないこと、そして二次電子の影響もSTM像変化に対する主因でないこと、がわかった。むしろ最大の要因は熱膨張である、と考えられる。 次に、原子分解能の元素分析への試みとして、Si(111)清浄表面上のナノサイズGeアイランドへ光照射を行った。Ge吸収端の上下で光を入射しそれぞれのSTM像を差分する測定である。まずトポグラフ像について単純に差分をとっただけでは明確な差は生じない。これは差分の基準に大きな誤差を含む難点があるためである。現在、トンネル電流自体の差分をとるシステムを構築し、その結果、差分の測定精度を大幅に向上できることまでが判っている。
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