核融合炉で定常運転を実現するには、ダイバータ部における燃料粒子(水素同位体)高速排気技術の確立が不可欠であり、超透過現象を利用したメンブレンポンプの開発が進められている。超透過現象は、入射側表面に吸着する不純物が水素同位体の再結合放出を抑制することにより発現する。従って、スパッタリングにより不純物が除去される環境下でポンプ性能を維持するには、不純物をあらかじめ透過膜中に溶解させておき、連続的に表面偏析させる必要がある。そこで、本年度は有望な膜材料であるNb中に酸素を溶解させ、表面偏析挙動、水素の表面反応に対する影響、スパッタ挙動等を調べた。 設備備品として購入したターボ分子ポンプを既設の透過実験装置に取付け、超高真空に排気した。900ppmの酸素を含むNb膜を用いて水素の分子駆動透過実験を行い、水素の表面反応速度に及ぼす偏析酸素の影響を調べた。また、酸素のスパッタ挙動に関する情報を得るため、バイアス電圧を印加した状態でプラズマ駆動透過実験を行った。購入した直流電源は試料温度の調整、プラズマの生成およびバイアス電圧の印加に用いた。さらに、表面分析を行い、酸素表面濃度の温度依存性や偏析速度を調べた。 分子駆動透過実験と表面分析の結果から、酸素の偏析により水素の表面反応(解離溶解・再結合放出)速度は著しく低下するが、活性化エネルギーには大きな変化がないことを見出した。すなわち、酸素に覆われたNb表面は均一ではなく、高濃度に酸素が偏析していても、その影響をほとんど受けない反応サイトが残存することを明らかにした。さらに、水素の表面反応に及ぼす酸素の影響を記述する現象論的モデルを提案した。また、酸素はNbがスパッタされない程度の低い入射エネルギーの水素によっても速やかに除去されるものの、表面偏析による吸着層修復速度は従来報告されている拡散係数から予測される値より大きいことがわかった。
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