量子化学計算におけるLinear-Scaling法の開発とその応用

2003 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 14703005
• 研究機関: 早稲田大学
• 研究代表者: 中井 浩巳 早稲田大学, 理工学部, 助教授 (00243056)
• キーワード: Linear-Scaling法 / 分子積分 / エネルギー密度解析 / 周期境界条件計算 / wPBEh汎関数

研究概要

本研究では、種々の量子化学計算に対する効率化を検討し、最終的には計算コストが計算規模に対して線形まで落とすこと(Linear-Scaling)を目指した。具体的には以下のような理論的研究を展開してきた。(1)分子積分の高速化、(2)エネルギー密度解析(EDA)の発展、(3)wPBEh汎関数を用いた周期境界条件(PBC)計算の評価、に関する研究を行ってきた。テーマ(1)では、量子化学計算のボトルネックである分子積分の計算に対して、新しい漸化関係式を導出することにより、高速化を図った。その手法は、L殻基底や構造最適化・振動数計算で必要な分子積分の微分の計算に有効であることが示された。テーマ(2)では、昨年度提案した新しい解析法、EDAをさらに発展させ、化学結合の詳細な理解に適用できるようにした。さらに、Kitaura-Morokumaエネルギー分割法との組合せにより、相互作用の詳細な解析にも成功した。テーマ(3)では、Scuseria教授のグループで開発されたHF/DFTハイブリッド汎関数wPBEhを用いて二酸化チタン結晶のPBC計算を行った。長距離交換相互作用をスクリーニングするwPBEh汎関数は、計算効率が飛躍的に向上していることが確かめられた。さらに、従来の汎関数に比べて、バンドギャップ・凝集エネルギーなどの実験値をよく再現していることも示された。

研究成果

• [文献書誌] Y.Kawai, S.Yamaguchi, Y.Okada, K.Takeuchi, Y.Yamauchi, S.Ozawa, H.Nakai: "Reactions of protonated water clusters H^+(H_2O)_n(n=2-6) with dimethylsulfoxide in a guided ion beam apparatus"Chem.Phys.Lett. 377(1-2). 69-73 (2003)
• [文献書誌] H.Nakai, Y.Yamauchi, A.Nakata, T.Baba, H.Takahashi: "Ab initio molecular dynamics study on the excitation dynamics of psoralen compounds"J.Chem.Phys.. 119(8). 4223-4228 (2003)
• [文献書誌] H.Nakai, K.Sodeyama: "Energy density analysis (EDA) of proton transfer reactions in malonaldehyde, tropolone, and 9-hydroxyphenalenone"J.Mol.Struct.(THOCHEM). 637(1-3). 27-35 (2003)
• [文献書誌] T.Homma, A.Tamaki, H.Nakai, T.Osaka: "Molecular orbital study on the reaction process of dimethylamine borane as a reductant for electroless deposition"J.Electroanalytical Chem.. 559. 131-136 (2003)
• [文献書誌] S.Yamaguchi, S.Kudoh, Y.Okada, T.Orii, K.Takeuchi, T.Ichikawa, H.Nakai: "Size-Dependent Reaction Cross Section of Protonated Water Clusters H^+(H_2O)_n (n=2-11) with D_2O"J.Phys.Chem.A. 107(50). 10904-10910 (2003)
• [文献書誌] A.Nakata, T.Baba, H.Takahashi, H.Nakai: "Theoretical study on the excited states of psoralen compounds bonded to a thymine residue"J.Comp.Chem.. 25(2). 179-188 (2004)