本研究では、種々の量子化学計算に対するUnear-Scaling(LS)法あるいは効果的な計算アルゴリズムを提案することを目指した。 (1)分子積分の高速計算プログラム開発:分子積分、とりわけ電子間反発積分(ERI)の計算は、いまなお量子化学計算のボトルネックの一つである。本研究では、昨年度提案したACE-RRアルゴリズムに基づくプログラムを作成し、GAMESSプログラムと組合せることにより汎用性の向上を目指した。実際、本手法は従来のアルゴリズムより20%程度高速化していることが確かめられた。 (2)Divide-and-Conquer(DC)法の検証:Yangによって提案された:LS法の一つであるDC法は、主にDFTに適用されてきた。しかし、原理的にはHF交換項を含むハイブリッド法にも応用できる。本研究では、DC-HFプログラムを作成し、HF交換項に対するDC法の是非を検討した。その結果、HF交換項の非局所性のため、十分な相互作用領域を用いる必要があること、打ち切りによるSCF収束性が悪化することが明らかとなった。 (3)AIMD法におけるSCF収束性の向上:AIMD法は時間ステップごとにMO/DFT計算を行うため、膨大な計算時間を必要とする。本研究では、MOの時間発展を考慮することにより、効果的な初期MOを推定し、SCF収束性の向上を達成した。多くの系で、2-4倍程度の高速化が実現された。 (4)NOMO法の高精度化:電子と核の波動関数を同時に決定するNOMO法は、我々が提案してきた独自の方法で、世界的にも注目されている。しかし、その精度は従来のMO法に比べ劣る。その原因は、電子-核および核-核相関といった特殊な多体効果に加えて、並進・回転運動の混入が挙げられる。本研究では、並進・回転運動の寄与を取り除く効果的なスキームを提案し、それによる高精度化を図った。
|