有機フェリ磁性体の磁気構造解明と高温有機磁石の開発

2003 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 14703010
• 研究機関: 大阪府立大学
• 研究代表者: 細越 裕子 大阪府立大学, 総合科学部, 助教授 (50290903)
• キーワード: 有機ラジカル / アミノキシル / ポリラジカル / フェリ磁性体 / 量子スピン / ニトロキシド / スピンフラストレーション / 混合スピン

研究概要

我々が世界に先駆けて発見した有機フェリ磁性体PNNBNOの磁性解明に向けて、今年度は類縁化合物の合成と構造解析、磁気測定を中心に行った。PNNBNO分子内の3つのS=1/2は、二つが2J_F/k_B=850Kの強い強磁性相互作用で結ばれてS=1種を形成し、これが残るもう一つのS=1/2と2J_<AF>/k_B=-210Kで反強磁性的に結合している。PNNBNOではJ_F/|J_<AF>|=4であり、強いJ_<AF>はS=1性を弱めていると考えられる。分子内に二つのラジカルユニットを含むビラジカルについて、二つのスピンをベンゼン環およびビフェニル環を介して相互作用させたところ、ベンゼン環を一つ増やすことで、Jの値が1/6になるという結果を得た。そこで、PNNBNOのS=1種とS=1/2をつなぐベンゼン環をビフェニル環に置換することで、J_<AF>を弱めた化合物BIPNNBNOを合成し、その磁性を調べた。トリラジカルBIPNNBNOのJ_<AF>の値はPNNBNOの1/7程度に弱められ、2J_<AF>/k_B=-30Kと見積もることができた。結晶中にはS=1とS=1/2が交互に並ぶフェリ磁性鎖の形成がみられた。PNNBNOとBIPNNBNOの違いはJ_<AF>の値の他に、分子内自由度の問題がある。PNNBNOは分子がミラー平面にのった平面性分子であるのに対し、BIPNNBNOはビフェニル環の二つのベンゼン環の間の二面角の自由度が生じている。このために、BIPNNBNOの形成するフェリ磁性鎖間には、最近接鎖間相互作用の他に、次近接鎖間相互作用が生じている。最近接鎖間ではS=1/2同士の、次近接鎖間ではS=1同士が接近しており、この同種のスピン間に反強磁性相互作用が生じていると考えられる。磁化率の温度依存性は15K近傍になだらかな極大を示し、さらに4Kに鋭いピークを示したのち、温度低下に伴い磁化率ゼロに向かって急激に減少した。BIPNNBNOはフェリ磁性鎖内相互作用に加え、最近接鎖間相互作用、次近接鎖間相互作用のすべてを考慮しようとすると、スピンの向きに矛盾が生じる。つまりスピンフラストレーションが生じていると考えられ、これが特異な磁性をもたらしていると考えられる。量子磁性体のスピン間相互作用の特質が強く顕れていると考えられるので、強磁場磁化過程、磁気共鳴の実験により、磁気相互作用発現機構を詳しく検討中である。PNNBNOの低い磁気相転移温度に関与しているスピンの量子性の解明に寄与するものである。PNNBNO分子の平面性を保ったまま、S=1/2ラジカルユニットをニトロニルニトロキシドからイミノニトロキシドに置換することでJ_<AF>を半分の大きさに減じたPIMBNOについても詳しく調べている。

研究成果

• [文献書誌] T.Goto, N.V.Mushnikov, Y.Hosokoshi, K.Katoh, K.Inoue: "High field magnetization process of BIPNNBNO and PIMBNO at low temperature"Physica B. 329-333. 1160-1161 (2003)
• [文献書誌] T.Sakai, N.Okazaki, K.Okamoto, K.Kindo, Y.Narumi, Y.Hosokoshi, K.Kato, K.Inoue, T.Goto: "Magnetization plateaux in S=1 spin ladder"Phys.Stat.Sol.. 236(2). 429-432 (2003)
• [文献書誌] Konami Izumi, Takao Goto, Yuko Hosokoshi, Jean-Paul Boucher: "Nuclear magnetic relaxation of ^<19>F in S=1/2 bond-alternating organic compound F_5PNN"Physica B. 329-333. 1191-1192 (2003)
• [文献書誌] N.V.Baranov, N.V.Mushnikov, T.Goto, Y.Hosokoshi, K.Inoue: "Slow dynamics of the magnetization in the ordered state of molecule based magnets with one-dimensional chain structure"J.Phys. : Condens.Matter. 15. 8881-8897 (2003)
• [文献書誌] M.Tamura, Y.Hosokoshi, D.Shiomi, M.Kinoshita, Y.Nakasawa, M.Ishikawa, H.Sawa, T.Kitazawa, A.Eguchi, Y.Nishio, K.Kajita: "Magnetic Properties and Structures of the α-and δ-Phases of p-NPNN"J.Phys.Soc.Jpn.. 72(7). 1735-1744 (2003)
• [文献書誌] Kazuo Mukai, Syunsuke Jinno, Yasuo Shimobe, Nagao Azuma, Masateru Taniguchi, Yohji Misaki, Kazuyoshi Tanaka, Katsuya Inoue, Yuko Hosokoshi: "Genuine organic magnetic semiconductors : electrical and magnetic properties of the TCNQ and iodide salts of methylpyridinium-substituted verdazyl radicals"J.Mater.Chem.. 13. 1614-1621 (2003)