研究概要 |
本研究は、これまでのセラミックスの破壊と先進セラミックスの微構造制御に関する研究成果を活かして、セラミックスの破面のナノ〜原子スケールの観察(ナノフラクトグラフィー)を行うことにより、粒内および粒界破壊靭性の発現メカニズムやセラミックスの疲労メカニズム等を、明らかにすることを目的としたものである。本年度は、昨年度購入し調整した各種測定モードを有する走査型プローブ顕微鏡(以下SPM)を用いて,ナノフラクトグラフィーの評価を行った。特に,本年度は最も一般的なセラミックスであるアルミナのナノフラクトグラフィー評価に特化して実験を行った.SPMにより低倍率でアルミナの破面を観察したところ,従来の走査型電子顕微鏡(SEM)や光学顕微鏡と同様に,アルミナ粒子の内部にき裂が進展する粒内破壊と,き裂が粒界を伝播していく粒界破壊が観察された。SPMによる高倍率観察の結果,粒界破壊では,SEMでは確認できないステップ状の微小な凸凹を呈する領域も確認された.これらは,小傾角粒界等の粒界構造を反映したものと推測される.一方,粒内破壊では,へき開破壊だけでなく複数のへき開面から構成される複雑な破面が確認された.また,粒内破壊が連続して発生している様子も多く見受けられた.このようなマルコフ連鎖的な破壊が生じた理由は明らかとならていないが,隣り合う二つの結晶が完全にランダムな方位にあるのではなく,安定な界面を形成するように特定の結晶方位関係で存在していることに起因すると推測される.さらに,き裂が粒内に残存する100nm程度の気孔に引き込まれる様子も観察され,結晶粒内におけるナノスケールの微構造とき裂の相互作用が確認された.以上より,SPMによるアルミナの破面観察により,セラミックス中をき裂は劈開面,粒界構造,気孔などのナノから原子オーダーの微構造と相互作用しながら進展することがわかった.
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