1.フルオロ酢酸デハロゲナーゼは、脂肪族化合物の強固な炭素-フッ素結合を切断する。Moraxella sp.B由来の酵素では、活性中心のAsp105の側鎖カルボキシル基が、基質のα-炭素を求核攻撃し、フッ化物イオンが脱離するとともに、Asp105と基質がエステル結合した中間体が生成する。中間体が加水分解されてグリコール酸が遊離し、Asp105が再生する。反応液にアンモニアを共存させると、酵素が失活した。失活酵素ではAsp105がAsnに変化していた。この結果は、本酵素の活性部位ではアンモニア分子がプロトン化されず、求核性を持つことを示している。本酵素の活性部位は、アンモニアがプロトン化されない、疎水性アミノ酸残基や塩基性アミノ酸残基に富んだ環境であることが示唆された。本酵素の立体構造モデルを構築した結果、この推測が裏付けられた。基質のフッ素原子が水和されない状態を保持し、活性部位アミノ酸残基のフッ素原子への結合を容易にする上で、疎水的な環境が重要と推察された。 2.L-2-ハロ酸デハロゲナーゼは、L-2-ハロ酸の加水分解的脱ハロゲン反応を触媒する。Pseudomonas sp.YL由来の酵素が触媒する反応は、フルオロ酢酸デハロゲナーゼと類似した機構で進行する。Asp10が求核性残基として機能し、エステル中間体を経由して反応が進行する。Asp10近傍にはThr14、Arg41、Ser118、Lys151、Tyr157、Ser175、Asn177、Asp180が存在する。これらを改変した変異型酵素を基質とインキュベーションし、構造変化を質量分析法により観測した。その結果、Arg41とAsp180を改変した変異型酵素では、野生型酵素に比べ、エステル中間体の形成が著しく遅くなることが判明し、これらの残基が中間体形成段階で機能することが示唆された。
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