研究概要 |
本研究課題の初年度である本年度は,含窒素ヘテロ環カルベンの配位子としての特性を探るべく,まずPd触媒によって進行する代表的な反応の一つである「辻-トロスト反応」への適用を検討した.その結果,イミダゾール骨格の窒素上に嵩高い芳香環を置換基として有するカルベンが配位子として最適であることが分かった.またこのカルベン配位子を用いた辻-トロスト反応における立体反応経路を調べるべく,様々な置換基をアリルアセテートを立体選択的に合成し反応の検討を行った.その結果,カルベンを配位子として用いた辻-トロスト反応でも,これまで報告されているホスフィンを配位子として用いた場合と同様に,基質のPdへの酸化的付加は立体反転で進行し,求核剤のπ-アリルパラジウム錯体への攻撃も立体反転で進行する,いわゆるネットリテンションの機構で進行していることも明らかにできた.本結果は,含窒素カルベンを「辻-トロスト反応」に適用した初めての例である. 一方,当研究室では既にPd触媒によるエニンのシリルスタニル化を伴う環化反応を開発に成功している.本反応では不均一系触媒であるPd/CやPd(OH)_2/Cを触媒として用いた場合にもっとも良い結果を与え,均一系Pd触媒-ホスフイン配位子の組み合わせでは副反応のみが起きてしまうことが明らかとなっていた.そこで,このエニンのシリルスタニル化反応にも,含窒素カルベンの配位子としての利用を検討した.その結果,イミダゾリニウム塩から調製したカルベン配位子が本反応に適していることがわかり,本反応において均一系触媒-配位子の触媒系が利用可能になった.このことは,今後このシリルスタニル化反応を触媒的不斉合成へと展開する上でも重要な知見である.従って次年度以降では,先に述べた辻-トロスト反応と共にこのシリルスタニルか反応の光学活性配位子を用いた触媒的不斉合成への展開を検討していく予定である.
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