研究概要 |
本研究課題の二年目である本年度は,前年度までに得られた成果に基づき以下の検討を行った. 1)含窒素ヘテロ環カルベンを配位子として用いた辻-トロスト反応の不斉反応への展開 我々は前年度までの検討で,Pd触媒を用いた代表的な反応の一つである辻-トロスト反応において,含窒素ヘテロ環カルベンが配位子として利用できることを初めて明らかとした.本年度は本反応の不斉反応化を目指し,カルベン前駆体であるイミダゾリウム塩の光学活性体としての合成を試みた.イミダゾール環の窒素上にフェネチル基やビナフチル基などの不斉源を有するもの,イミダゾール環自身に不斉炭素を導入したものなど,種々の光学活性イミダゾリウム塩及びイミダゾリニウム塩を合成したが,収率、光学活性過剰率の両方を満足するものを見いだすには至らなかった.今後,更に検討を行う予定である. 2)Ni触媒によるシラジエンとアルデヒドとのヒドロシラン存在下のカップリング反応 Ni触媒を用い,ヒドロシラン存在下,1-dimethylphenylsilyl-1,3-butadieneと種々のアルデヒドとのカップリング反応において,配位子としてトリフェニルホスフィンを用いると,立体選択的にE-アリルシラン誘導体が生成するのに対し,含窒素ヘテロ環カルベンを配位子として用いると立体選択性が劇的に変化し,Z-アリルシランのみが生成することを見いだした.本反応では,配位子を換えるだけで同じ基質からE-,Z-アリルシランの作り分けが可能となり,アリルシラン誘導体の新しい立体選択的合成法となり得る. 3)ジインとアリーンとの[2+2+2]環化付加反応によるArylnaphthalene誘導体の合成 アリーンとジインとの[2+2+2]環化付加反応がPd触媒存在下,tri-o-tolylphosphineなどの嵩高いリン配位子を用いると進行し,良好な収率でArylnaphthalene誘導体を与えることを見いだした.本反応においては,含窒素ヘテロ環カルベン型配位子も嵩高いリン配位子と匹敵する反応性を示した.次年度以降,不斉合成への展開も含め更に検討していきたい.
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