研究概要 |
興味深い生理活性を示す天然有機化合物には、重要な細胞内標的タンパク質が存在し、その解明が新しい化学と生物学の局面を開くことが多い。そこで、昨年度に引き続き、我々が見出した放線菌由来のアポトーシス誘導剤サイトトリエニンAに関する化学生物学的研究、およびデスレセプター依存的アポトーシス誘導剤/阻害剤の探索研究および化学生物学的研究を行った。 1.腫瘍血管新生においては、血管内皮増殖因子(VEGF)をはじめとして様々な血管新生促進因子の分泌が低酸素状態にレスポンスして誘導されている。そこで、各種癌細胞の低酸素状態におけるVEGF分泌能を検討した結果、ヒト乳癌細胞株MCF-7が最もVEGF検出系に優れていることを見出した。現在、本検出系などを用いて、低酸素状態におけるVEGF分泌系に与えるサイトトリエニンAの影響などを検討中である。 2.Fas依存性アポトーシスを抑制する天然有機化合物を、細胞生存率、核クロマチンの凝縮、DNA断片化、caspase-3活性化などを指標に探索した結果、糸状菌由来のECH[(2R,3R,4S)-2,3-epoxy-4-hydroxy-5-hydroxymethyl-6-(1E)-propenyl-cyclohex-5-en-1-one]を見出した。ECHの構造活性相関研究で得た知見を基に、ECH結合タンパク質を同定するためのプローブを創製し探索した結果、ECHの標的タンパク質としてprocaspse-8を見出した。さらに詳細な解析の結果、ECHはprocaspase-8の活性を阻害することで、デスレセプター依存性のアポトーシスを選択的に抑制することが示された。
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