研究概要 |
生物が生命を維持するためには、ゲノム情報を包括する構造体である染色体が安定に保持・増殖されなければならない。正常な細胞では、ほぼ決まった時間周期でゲノムの複製と分配が正確に行われる。染色体複製・分配のような基本的な生体反応に狂いが生じると染色体の異数化、がん化など細胞に対する悪影響が生じる。したがって、染色体複製や分配の正確な分子機構を解明することは、遺伝学における本質的な課題の一つである。我々は、染色体分配に重要な働きを担うセントロメアの機能解析を行っている。本研究では、哺乳類細胞の数十から数百倍の頻度で相同組換えが起こるニワトリDT40細胞を用いて各種セントロメアタンパク質のノックアウト解析法を通じて、高等脊椎動物のセントロメアの形成に関する分子機構の理解を目指している。本年度は、CENP-A、CENP-1/Mis6、Nuf2、ZW10、に加えて、生化学的にZW10と相互作用することが見つかったZW250を対象にノックアウト解析を試みた。CENP-A、CENP-1/Mis6、Nuf2、ZW10に関しては、ノックアウト株の樹立に成功し、ZW250は1アリルのノックアウトが終了したところである。CENP-Aのノックアウト細胞の解析の結果、細胞分裂時期のみならず、間期にも異常が生じることが明らかになった。また、CENP-A欠損細胞で、CENP-C,-H,-Iの局在異常が認められた。NuΩのノックアウト細胞は、約450分の細胞分裂の遅延が起きた後、次の細胞周期に進行することなく死滅した。Nuf2の欠損した染色体のセントロメアにはCENP-C、-H、-Iが存在していた。また、Nuf2がMad2と直接結合することが明らかになったが、ノックアウト細胞でBubRlの局在異常は認められなかった。Nuf2の欠損細胞における細胞分裂遅延は、チェックポイント依存的であるため、BubRIの活性化がその要因の一つであると考えられた。他のノックアウト株の表現型の解析を現在進めている。
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