研究概要 |
ヒトの直立二足姿勢・歩行を支える足の動きの特徴とその進化的意義を調べることは、現在のヒトの足についての理解に不可欠と考えられるが、これまでのところヒトの足の特徴は単に地上適応として片付けられることが多く、その詳細は不明である。本研究では樹上性と地上性の霊長類およびヒトの足について、歩行中の動きを運動学的手法(ビデオ、反力、足圧分布計測等)を用いて定量的に解析・比較することを目的とした。 今年度の目標は、(1)実験装置と解析プログラムの作成、(2)霊長類を用いた運動実験(地上歩行と樹上歩行の計測)の2点であった。まず、(1)については、樹上歩行実験に必要なポール状反力・足圧分布計測装置(全長約7m,直径7cm)の製作を行った。ただし、この装置の中心となるセンサー(MTTA社、BIGMAT)の納入が手続きの都合で遅れたため、完成は年度末となった。解析プログラムは、霊長類歩行研究の第一人者であるJ. T. Stern教授(New York州立大)、および運動力学の理論的研究者であるT. Raphan教授(New York市立大学)から専門知識の提供を受けて作成した。運動実験については、上記のポール状計測装置の完成が遅れたため、地上歩行の計測のみを行った。 運動実験の被験体には、樹上性のクモザル1頭と地上性に分類されるニホンザル2頭を用いた。その結果、クモザルの足部はニホンザルの足部に比べ特に立脚期終盤においてつま先がより外側を向いており、蹴り出しの機能軸が第一指よりに移っていること、遊脚期終盤にクモザルの足部は着地に備えつま先外側を向き始めるのに対し、ニホンザルの足部では逆に内側を向き始めることが判明した。また、足根中足関節での背屈がクモザルにおいてニホンザルよりも小さいことが明らかになった。これはクモザルが樹上では第1指と他の指で枝を握りつつ歩行を行うことに関連すると考えられる。
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