歩行中の足の動きとその進化的意義 -霊長類を用いた比較運動学的研究-

2003 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 14704005
• 研究機関: 大阪大学
• 研究代表者: 平崎 鋭矢 大阪大学, 人間科学研究科, 助手 (70252567)
• キーワード: 足 / 運動学 / 足圧分布 / 樹上適応 / 地上適応 / ロコモーション / ニホンザル / クモザル

研究概要

本研究では、ヒトの足の動きの特徴とその進化的意義を調べること目的とし、樹上性と地上性の霊長類の足について、歩行中の動きを運動学的手法を用いて解析・比較している。昨年度(初年度)は、地上歩行中の足の動きをビデオ解析した結果、クモザルの足がニホンザルの足に比べ特に立脚期終盤においてつま先をより外側を向け、蹴り出しの機能軸が第一指よりに移すこと等が明らかになった。
今年度の目標は、(1)樹上を模した支持体上での歩行時における足の動きを計測し、地上歩行時に見られた上記の特徴が樹上歩行でどのように変化するかについて解析すること、および(2)足部の動態をより詳細に捉えることができる足圧分布を歩行中に計測することであった。(1)の実験からは、クモザにおいては地上歩行時で見られた特徴がさらに促進されることが判明した。また、ニホンザルにおいても、クモザルの足の動きに近い動きが見られた。つまり、立脚期終盤においてつま先がより外側を向いており、蹴り出しの機能軸が第一指よりに移るという特徴は樹上歩行への適応であることが明確に示された。(2)の実験では、被験体にニホンザルを用い、二足および四足歩行時における足部の動きの違いについて検討した結果、以下の3点が明らかになった。(a)四足歩行では、足は足根の踵に近い部分から接地し、足圧中心はほぼまっすぐ前方へ移動する。それに対し、二足歩行では、足は外側中足部から接地し、足圧中心は一旦踵方向に移動する。(b)四足歩行では立脚後期に外側2つの中足骨頭が多くの体重を支えたが、二足歩行では内側の2つに大きな圧力がかかった。(c)四足歩行では母趾にかかる圧力は立脚期前半に大きかったが、二足歩行では後半にピークがあった。二足歩行をすることにより、母趾を他の趾に揃え立脚期後半の蹴り出しに用いるという戦略が、ヒトほど極端ではないにせよ取られたのかもしれない。

研究成果

• [文献書誌] HIRASAKI, Eishi et al.: "Head movements during locomotion in a gibbon and Japanese macaques."NeuroReport. 15. 643-647 (2004)
• [文献書誌] 平崎 鋭矢: "サルのロコモーションを調べる"バイオメカニズム学会誌. 29(in press). (2004)
• [文献書誌] HIRASAKI, Eishi et al.: "Primates trained for bipedal locomotion offer a model for studying the evolution of bipedal locomotion."Human Origins and Environmental Backgrounds(論文集,Kluwer Academic/Prenum Publishers, New York). (in press). (2004)
• [文献書誌] NAKATSUKASA, Masato, HIRASAKI, Eishi et al.: "Energetic Costs of Bipedal and Quadrupedal Walking in Japanese Macaques."American Journal of Physical Anthropology. (in press). (2004)
• [文献書誌] NAKATSUKASA, Masato, HIRASAKI, Eishi et al.: "Locomotor energetics in nonhuman primates : a review of recent studies on bipedal performing macaques."Human Origins and Environmental Backgrounds(論文集,Kluwer Academic/Prenum Publishers, New York). (in press). (2004)
• [文献書誌] HIRASAKI, Eishi et al.: "Dynamics of foot use during bipedal and quadrupedal walking in Macaca fuscata (ABSTRACT)."Anthropological Science. 111. 433 (2003)