研究概要 |
深海に棲息する多細胞生物は、捕獲時にともなう生物への損傷や、高温表層海水への暴露、そして減圧によるダメージにより、捕獲された深海多細胞生物のほとんどが死滅してしまう。そのため、深海多細胞生物に関する研究の大半が、死んだサンプルを利用した研究が主であり、組織培養を利用する分子生物学的な研究はおろか、地上での深海生物飼育さえも極めて困難な状況にある。 深海多細胞生物の分子細胞生物学的な研究を進めるためには、まず深海生物を活かしたまま持ち帰る装置を開発しなければならない。そして捕獲された深海生物を徐々に減圧し、大気圧条件に順応させた後、深海生物を組織培養し、細胞株を樹立する事で、初めて分子細胞生物学的な研究が本格的に進める事ができる。平成14年度は保温保圧型深海生物捕獲飼育装置を完成させ、機能評価した。 本装置は海水に長期間曝しても錆びにくいSUS316ステンレススチールを採用した。そして、日本が保有する全ての潜水調査艇に搭載可能とするため、水中重量を50kg未満、水槽内容積20Lの捕獲飼育用保圧容器を設計した。本保圧水槽容器の耐圧限界をこえる水深での生物捕獲を可能とするため、圧力制御装置を取り付けた。 本装置で実際に深海魚を長期間飼育可能か検討するため、水深500mから捕獲した深海魚ボウズカジカを加圧飼育水槽に入れ、長期飼育を試みた。その結果、大気圧ではほとんど全てが死滅してしまうボウズカジカを加圧下で2ヵ月間飼育する事に成功した。次に実際に「しんかい2000」で深海生物を保温保圧した状態で捕獲飼育可能か検討した。その結果、水深1,000m以深に棲息する深海魚ヘビゲンゲを保温保圧した状態で捕獲回収し、地上で加圧飼育することに成功した。
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