Transfer RNA分子におけるクローバーリーフ構造の安定化戦略の解明

2002 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 14704011
• 研究機関: 豊橋技術科学大学
• 研究代表者: 田中 照通 豊橋技術科学大学, 工学部, 助教授 (30273337)
• キーワード: ribonuclease P / Ribozyme / tRNA / long extra loop / intron

研究概要

Transfer RNAは生体内のタンパク質合成系におけるアミノ酸の運び手であると同時に核酸の塩基配列とアミノ酸との対応を橋渡しする遺伝暗号の担い手の分子である。これらのtRNA分子はすべて共通のクローバーリーフ構造を有しているが、一部のtRNAにおいては試験管内において必ずしもこの構造を維持することはできず、高濃度のMgイオン等の共存によって容易に変性することを申請者は報告してきた。tRNA分子の変性は分子内における相補的な部分配列の存在に起因するが、こういった配列の存在はtRNA分子がクローバーリーフ構造を維持するには明らかに不利である。データベース検索に基づく統計的な解析の結果から、非常に多種のtRNAにおいて上述の不利な相補的配列の存在が確認され、該当するtRNAのうちの幾つかは試験管内条件下において容易に変性することが実験的にも確認された。一方でこのような相補的配列はイントロンや長いエクストラループを有するtRNAにおいて局在する傾向がある。そこで数種のイントロンを有するtRNA及び数種の長いエクルトラループを有するtRNAとその変異体を調製して解析したところ、tRNA内の長いエクストラループは少なくともクローバーリーフ構造の維持には大きく寄与していることが解った。イントロン配列に関してはクローバーリーフ構造の維持に寄与するものもあれば、全く寄与しないものもあり、その存在意義や由来に関しては統一的な見解を出すには至っていない。(投稿論文は準備中)
また本研究を通して、一見同じ構造であるtRNA分子にも由来の種によってその安定性には差があることが解ってきた。本研究は3年のうちの1年目であるが、残りの期間を通してtRNAの部分(構造)配列の安定性への寄与を解析するとともに、tRNAやその関連酵素に焦点をあててRNAレベルでの進化と種の違いに関しても併せて明らかにしてゆく予定である。

研究成果

• [文献書誌] Terumichi Tanaka et al.: "Guide DNA technique in bacterial ribonuclease P reaction for effective processing of tRNA precursor"Biotechnology and Applied Biochemistry. 36. 85-88 (2002)
• [文献書誌] Terumichi Tanak et al.: "Another cut for lysine tRNA : Application of the hyperprocessing reaction reveals another stabilization strategy in metazaon lysine tRNAs"Journal of Biochemistry. 131. 839-847 (2002)
• [文献書誌] Tomoaki Ando et al.: "Kinetic analysis on hyperprocessing reaction of human tyrosine tRNA by E.coli ribonuclease P ribozyme"Bioscience, Biotechnology and Biochemistry. 66. 1967-1971 (2002)
• [文献書誌] Tomoaki Ando et al.: "Regulation of bacterial RNase P ribozyme by divalent cation and guide DNA"Nucleic Acids Research. Suppl.No.2. 271-272 (2002)
• [文献書誌] Yoshiaki Hori et al.: "Porphyrins and porphines inhibit the ribonuclease P reaction in vitro"Nucleic Acids Research. Suppl.No.2. 111-112 (2002)
• [文献書誌] Tomoaki Ando et al.: "Substrate shape specificity of E.coli RNase P ribozyme is dependent on the concentration of magnesium ion"Journal of Biochemistry. 133(No.4)(in press). (2003)
• [文献書誌] Terumichi Tanaka et al.: "E.coli tRNAs are resistant to the hyperprocessing reaction by homologous E.coli ribonuclease P ribozyme"Bioscience, Biotechnology and Biochemistry. 67(No.5)(in press). (2003)
• [文献書誌] Terumichi Tanaka et al.: "Revisiting the substrate recognition of bacterial ribonuclease P ---in the view of the recognition of the base N73 in the substrate"Nucleic Acids Research. Suppl.No.3(in press). (2003)
• [文献書誌] 田中照通, 菊池洋: "「生命の科学」53巻2号・特集「RNA」「RNA酵素に生命の謎解きができるか?」"(財)金原一郎記念医学医療振興財団. 6 (2002)