岩手県越喜来湾において週一回のサンプリングを行い、Dinophysis fortii天然細胞を集めた。それに対して、備品として購入したマルチチャンネル分光測光装置により細胞内蛍光スペクトルを測定し、その情報をもとに透過型電子顕微鏡(TEM)試料の作成、葉緑体DNAの抽出を行った。蛍光スペクトル分析の結果、D.fortiiにはクリプト藻類の葉緑体に特有の色素(フィコエリスリン;以下PE)が常に含まれるが、その量は著しく変動することが判明した。PE含量が異なる時々のD.fortiiから、葉緑体小サブユニットrDNA(以下SSU rDNA)を増幅・精製し、その塩基配列を調べたが、時期を問わずゲミニゲラ科のクリプト藻に近似する配列を示した。当年はD.fortii以外にD.triposも多く出現したため、その葉緑体SSU rDNAの塩基配列も調べた。その結果D.triposにも全く同じ葉緑体が含まれていた。将来的にこれらDinophysis spp.葉緑体の遺伝子マーカーによる検出を目指すため、SSU rDNAよりも変異が大きいとされるリブロース二リン酸脱炭酸酵素の大サブユニット遺伝子(rbcL)の塩基配列の情報も得た。これらDinophysis spp.の葉緑体遺伝子解析結果から、その葉緑体の起源と近縁と思われるクリプト藻培養株をいくつか手に入れて、それらをDinophysisに与える実験も行ったが、活発なDinophysis細胞の入手が困難な時期となったため、その観察は来年度に期待したい。なお、当年はD.mitraも大量に出現し、その蛍光スペクトルの分析の結果、本種はD.fortii、D.triposとは異なる葉緑体を持つことが示唆された。このためTEMによりその形態を観察したところ、ハプト藻類のそれに酷似していた。現在葉緑体遺伝子の解析の最中である。 D.fortiiの捕食生態の面に関しては、食胞内のミトコンドリアDNAの増幅はかなわず、現在、核SSU rDNAのユニバーサル増幅産物の多数のクローニングを行い、塩基配列の情報より、その餌生物の同定を実施している。
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