本研究の目的は、申請者が独自に開発中である単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus : HSV)全ゲノムを保持する大腸菌を用いた新しいHSV組み換え法を利用して、新しいHSVワクチンおよび遺伝子治療用ベクター開発に向けての基礎的な知見を蓄積することにある。本年度は以下の結果を得た。 昨年度、我々が独自に開発したHSV全ゲノムを有する大腸菌(YEbac102)内でウイルスゲノムに変異を導入する系をRecA法を利用して確立した。しかし、RecA法では、変異導入の確率がそれほど良好でないことが判明したため、より簡便かつ迅速な変異導入法の確立を行った。まず、欠損変異に関しては、RecE&T法とFRT/FLP系を組み合わせ、1週間程度でウイルスゲノムに欠損変異を導入する系を開発した。この系を利用して、機能不明なウイルス遺伝子UL51およびウイルスがコードするプロテインキナーゼであるUL13の欠損変異ウイルスを作製することに成功した。次に、点変異に関しては、RecE&T法とRecA法を組み合わせることによってRecA法単独の系と比して著しく変異導入効率が上昇した。この系を用いてUL13の酵素活性を消失する点変異を有する組み換え変異ウイルスの作製に成功した。また、本系はウイルスゲノムへの外来遺伝子の挿入も可能であった。現在、約10種類の組み換えHSVを本年度確立された組み換え系を利用して作成中である。 本年度確立されたHSVの組み換え系は、HSVの基礎研究、ワクチン開発、ベクター開発に有用であると考えられる。
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