マグネシウムはNMDA受容体に関連したCaイオンの細胞内流入を阻害し脊髄虚血時のグルタミン酸濃度上昇を抑制する作用がある。動物実験では脊髄くも膜下投与(3mg/kg)で脊髄保護作用が報告されているが、その安全性は明らかではない。本研究では、硫酸マグネシウムの脊髄くも膜下投与の安全性を検討した。【方法】家兎に予め腰部脊髄くも膜下に薬物注入用カテーテルを埋め込み、神経障害の無いことを確認した後、マグネシウム0.3mg/kg群、1mg/kg群、2mg/kg群、3mg/kg群(各群6羽)に分けた。家兎をセボフルランで麻酔し、カテーテルより硫酸マグネシウム溶液を投与した。硫酸マグネシウム溶液は、総投与量が0.3ml、比重が約1.0になるように生理食塩水で希釈した。投与後、家兎を麻酔より覚醒させ、後肢運動機能(4:正常、3:跳躍はできる、2:正常に座れない、1:わずかに動く、0:完全麻痺)及び感覚障害を観察した。7日後に全身麻酔下に脊髄を灌流固定した。HE染色を用いて腹側脊髄の正常神経細胞数を計測し、後索の空胞化を評価した。【結果】後肢運動機能は、0.3mg/kg群、1mg/kg群では全て正常で、2mg/kg群では4:4羽、2:1羽、1:1羽、3mg/kg群では4:4羽、3:1羽、0:1羽であった(有意差なし)。感覚障害は、0.3mg/kg群、1mg/kg群では認められず、2mg/kg群では2/6に、3mg/kg群では5/6に認められた。腹側脊髄の正常神経細胞数は、0.3mg/kg群101±21、1mg/kg群40±27、2mg/kg群63±32、3mg/kg群52±24と、1-3mg/kg群で有意に少なかった。後索の空胞化は0.3mg/kg群で2/6、1mg/kg群と2mg/kg群で3/6、3mg/kg群では4/6に認められた。【考察・まとめ】マグネシウムは血液脳関門を通過しにくく、静脈内投与では血圧低下等の副作用がある。そのため、脊髄虚血時の脊髄保護にはくも膜下投与が有効と考えられるが、今回の結果から、1mg/kg以上の投与をおこなった群では腹側脊髄の正常神経細胞数の明らかな減少が認められ、マグネシウム投与によって何らかの神経障害を来したことが示唆された。虚血性脊髄傷害の保護を目的とした使用には今後さらなる検討が必要である。
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