低出生体重児の出産や脳性麻痺の発生など、児の長期予後を悪化させる妊娠経過を改善するためには、母体と児の物質交換、ガス交換の場として胎児の発育および成熟に重要な役割を果たしている胎盤の形成促進や機能賦活化など胎盤自身に対する根本的治療の開発が必要である。本年度はまず、胎盤から産生される生理活性物質に注目し、母体栄養代謝に及ぼす影響と胎盤形成、胎児発育に及ぼす生理作用とを検討した。また妊娠マウスを用い、胎盤形成、胎児発育に関する実験モデルの作成を試みた。 1.ヒト胎盤におけるレジスチン産生の解明 レジスチンはインスリン抵抗性を増大させるホルモンであるが、妊娠初期絨毛組織、妊娠末期胎盤組織においてレジンスチン遺伝子の発現とレジスチン蛋白の局在を確認した。妊娠末期妊婦の母体血中レジスチン濃度は非妊時と比較して約3倍高値を示した。 2.胎盤形成制御因子のin vivo解析のための細胞移植実験系の確立 遺伝子操作により全身の細胞を蛍光色素(GFP)標識されたマウス(GFPマウス)から胎盤由来細胞、骨髄由来細胞、肝細胞を分離採取し、これを正常妊娠マウス子宮内胎盤に注入した。各細胞は胎盤内で生着している事が確認された。 3.妊娠マウスの摂食制限による胎児発育遅延モデルの作成 妊娠マウス母獣の妊娠後半期の給餌量を制限したところ、仔の出生時体重は自由摂食群と比較して有意に低値であった。出産後の母獣を自由摂食下で授乳させる事により新生仔の体重は速やかに対照群の出生仔に追い付いたが、脂肪細胞におけるレプチン遺伝子の発現は有意に亢進していることが認められた。 次年度以降、引き続き胎盤の形成、成熟過程を検索し、妊娠転帰を改善するための新たな治療法の開発を試みる予定である。
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