嚥下障害解明にむけた嚥下関連筋群の分子機構の解析

2002 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 14704046
• 研究機関: 東京歯科大学
• 研究代表者: 阿部 伸一 東京歯科大学, 歯学部, 助教授 (40256300)
• キーワード: ミオシン重鎖 / 嚥下障害 / 摂食・嚥下 / 筋線維 / 筋線維特性 / 嚥下関連筋群 / MHC-2a / MHC2-b

研究概要

摂食・嚥下関連筋群の分子生物学的な検索、特に分子量の多い筋収縮蛋白であるミオシン重鎖の各アイソフォームの組成の解明に焦点を絞り、それぞれの筋線維特性から、関連筋群のもつ摂食・嚥下に関する制御機構を解明することを本研究の目的とし研究を設定した。まず第一に、口腔領域の大きな機能変化である吸綴運動から咀嚼運動、すなわち離乳現象が、口腔領域の摂食・嚥下関連筋群の筋線維特性に与える影響について検討した。これまでマウス成獣の咬筋は、速筋タイプのみから構成されることは知られていた。しかし、速筋タイプの各Isoformの構成比が発育過程でどのように変化していくのか不明であった。特に発育過程に見られる「離乳」という現象は、咬筋に大きな機能的役割の変化をもたらすと想像できる。そこで出生直後、生後3,7,14,21日齢の咬筋のIsoformの構成比を蛋白レベルで明らかにした。その結果、出生直後から14日齢まではMHC-2aとMHC-2dの発現がみられ、MHC-2bは発現していなかった。そして生後21日目になると遅筋タイプのIsoformであるMHC-1およびMHC-2aが消失し、MHC-2bの発現が見られた。このMHC-2bは、速筋タイプのIsoformの中で最も収縮速度が速く、力の強いIsoformである。マウスの離乳期は生後2から3週とされており、MHC-2bの発現は離乳時期と一致していた。対照である前頚骨筋にはこのような変化は認められなかった。この結果より、吸啜から咀嚼への機能の変化とMHCIsoformの構成比の変化に関係があることが示唆された。同様の観点からの実験を顎運動に重要な役割を果たす外側翼突筋、さらに嚥下に関係する舌筋について検討したところ、口腔機能の変化がミオシン重鎖の組成に大きな影響を与えている可能性が明らかとなってきた。

研究成果

• [文献書誌] Usami, A., Abe, S., Ide, Y: "Myosin heavy chain isoforms of the murine masseter muscle during pre and postnatal Development"Anat Histol Embryol. 32(in press). (2003)
• [文献書誌] 滝澤光直, 阿部伸一, 井出吉信: "日本人・外側翼突筋の筋線維特性について"日顎誌. 14(3). 269-275 (2002)
• [文献書誌] Abe, S., Watanabe, Y., Shintani, M., Tazaki, M., et al.: "Magnetoencephalographic study of the starting point of voluntary swallowing"Cranio. 21(1). 46-49 (2003)
• [文献書誌] Abe, S., Kaneko, H., Nakamura, Y, Watanabe, Y, et al.: "Experimental device to detect laryngeal movement accompanying swallowing"Bull. Tokyo dent. Coll.. 43(3). 199-203 (2002)
• [文献書誌] Abe, S., Maejima, M., Watanabe, H.et al.: "Muscle-fibre characteristics in the adult mouse tongue muscles"Anat. Sci. Int.. 77. 145-148 (2002)
• [文献書誌] Gojo, S., Abe, S., Ide, Y.: "Characteristics of myofibers in the masseter muscle of mice during postnatal growth"Anat Histol Embryol. 31. 105-112 (2002)