嚥下障害解明にむけた嚥下関連筋群の分子機構の解析

2003 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 14704046
• 研究機関: 東京歯科大学
• 研究代表者: 阿部 伸一 東京歯科大学, 歯学部, 助教授 (40256300)
• キーワード: ミオシン重鎖 / 嚥下障害 / 摂食・嚥下 / 筋線維 / 筋繊維特性 / 嚥下関連筋群 / MHC-2a / MHC2-b

研究概要

前年度は、in vivoの実験系において筋に与える機能と筋収縮タンパクのIsoformの構成比の変化について離乳、歯牙喪失などの時期に関する口腔領域の筋についての研究を行ったが、その結果を踏まえ今年度はin vitroの実験系を組んだ。培養された筋芽細胞に適正な機械的刺激を加えることにより、細胞の増殖や分化が促進されることが報告されている。しかしながら、機械的刺激が、筋線維の特性に与える影響については不明な点が残されていた。そこで我々は、最終的には速筋型へ優位に分化するとされる、マウス骨格筋筋芽細胞株C2C12細胞に対し伸展刺激を加え、細胞の分化の過程における筋収縮蛋白の構成変化を観察した。筋の特性を明らかにするために調べたIsoformは、ミオシン重鎖(MHC)の速筋型に属するMHC-2b,2d,2aである。細胞をシリコンチャンバー上に播種後、シリコンチャンバーに15%伸張(1秒伸展/1秒弛緩)の機械的な伸展刺激を加え、それぞれのMHC Isoformについて定量が可能であるLightcyclerを用いてmRNAの量を経時的に比較した。その結果、伸展群で最初MHC-2bが多く出現した。また、伸展刺激を加えない対照群で経時的に増加したMHC-2dは、伸展群ではほとんど認められなかった。さらに、伸展群のMHC-2aが対照群に対し有意に増加した。MHC-2dは、筋の機能変化に応じて、その性質を収縮力の強いMHC-2bや収縮力が弱く持続力のあるMHC-2aに変化させるのではないかとするin vivoでの報告がある。今回の結果より、筋芽細胞は持続的な伸展刺激により、MHC-2aの性質を獲得したことを示している。従って、筋細胞は環境変化に対応し、細胞の増殖、分化が促進されるだけでなく、Isoformのレベルでも積極的にその性質を変化させていることが、in vitroの実験系において初めて明らかとなった。

研究成果

• [文献書誌] Doi, T., Abe, S., Ide, Y.: "Masticatory fanction and properties of masseter muscle fibers in microphthalmia (mi/mi) mice during postnatal development"Ann Anat. 185. 435-440 (2003)
• [文献書誌] Usami, A., Abe, S., Ide, Y: "Myosin heavy chain isoforms of the murine masseter muscle during pre and postnatal development"Anat Histol Embryol. 32. 1-5 (2003)
• [文献書誌] Abe, S., watanabe, Y., shintani, M., Tazaki, M., et al.: "Magnetoencephalographic study of the starting point of voluntary swallowing"Cranio. 21(1). 46-49 (2003)
• [文献書誌] Abe, S., Kaneko, H., Nakamura, Y., Watanabe, Y., et al.: "Experimental device to detect laryngeal movement accompanying swallowing"Bull.Tokyo dent.Coll.. 43(3). 199-203 (2002)
• [文献書誌] Abe, S., Maejima, M., Watanabe, H., et al.: "Muscle-fibre characteristics in the adult mouse tongue muscles"Anat.Sci.Int.. 77. 145-148 (2002)
• [文献書誌] Gojo, S., Abe, S., Ide, Y.: "Characteristics of myofibers in the masseter muscle of mice during postnatal growth"Anat Histol Embryol. 31. 105-112 (2002)