アミノアシルtRNA合成酵素(aaRS)遺伝子を部位特異的に改変する手法では、酵素のアミノ酸特異性が劇的に変換されたような酵素を得ることは難しいと考えられる。そこでまず分子進化工学的手法の有効性を明らかにするためにorthogonalなサプレッサーtRNAが大腸菌の生細胞を用いて選別できるかを試みた。OrthogonalなtRNAとは細胞内で内在性のaaRSに認識されず、外来のaaRSにのみ認識されるtRNAである。酵母のサプレッサーチロシンtRNAはわずかに内在性のリジルtRNA合成酵素(LysRS)に認識されることが明らかとなっているが、このことは今後、非天然アミノ酸のみを認識するaaRS遺伝子を分子進化工学によって選別する際に重大な弊害となる。カナマイシン耐性遺伝子内にアンバーコドンが導入されたプラスミドに酵母サプレッサーチロシンtRNA遺伝子をクローニングし、さらにアンチコドンアームに計16塩基のランダムな変異が導入された遺伝子プールを作製した。また酵母チロシルtRNA合成酵素(TyrRS)遺伝子を複製起点が同じでアンピシリン耐性遺伝子を持つプラスミドにクローニングした。カナマイシンのみを含む培地中で不和合性であるはずの酵母TyrRS遺伝子を持つプラスミドを排除しなかった大腸菌はorthogonalなtRNA遺伝子を持つ可能性が高い。選別されたtRNAのアミノ酸特異性を調べたところ、酵母チロシルtRNAには認識されるが、大腸菌LysRSには全く認識されないことが確かめられた。
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