西洋近世哲学におけるにおける実体・自然・自我といった基礎概念を、スピノザを参照軸としつつデカルト、ライプニッツとの比較の上で、明らかにすることが、本研究の目的である。 研究初年度にあたる本年度は、申請段階においてはスピノザとライプニッツの実体概念の比較研究をテーマとして設定した。だが、さいわいなことに、「スピノザの実体一元論(2)」(北海道大学文学研究科紀要106号、2002年2月)を執筆する中で、当初のもくろみをある程度達成することができた。そこで今年度は、研究計画で予定されている「精神の永遠性」についての考察の前段階としてスピノザ政治論の研究に着手した。スピノザは政治的な議論を介して、人間の至福(その究極がみずからを永遠と感受すること)への道を探求しているからである。必要な文献収集とその整理はほぼ終了し、現在論文にまとめはじめている。はやければ、来年度7月には活字となるだろう。 このほかに、今年度はスピノザ真理論にも目を向けている。というのも、オランダの17世紀哲学史研究の大家テオ・ファベイク氏(ユトレヒト大学教授)がスピノザ協会の特別講演で来日され、親しく接する機会をもったからである。彼の講演原稿(真理の「規範」と「規準」)を私が翻訳したこともあり、講演での議論やその前後の私的な会話から、スピノザにおける真理の問題に大いに関心をもつに至った(講演は2002年9月21日於東京大学)。その研究のための文献を、現代真理論の基本書も含めて、収集し読み進めているところである。とりかかったばかりであるので、とくに論文となった業績はないが、ファベイク氏の講演原稿を本人が加筆修正した論文を翻訳し、スピノザ協会年報に掲載される予定である(2003年3月発刊予定)。
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