生命概念の現在的な意義とその思想的な状況に関して検討するため、本年は次のことを行った。 ・複雑系システム論、カオス、進化論、生命記号論、環境、免疫やアフォーダンスを中心とした、生命に関する議論に関する内外の文文献の収集と検討をおこない、そこでさまざまな知見として提示されている生命という概念の、伝統的な論じられ方との相同性と差異に関して、考察をなした。 ・生命の哲学的思考とその現代的形態に関する、上記生命科学の知見とのすりあわせ。とりわけドゥルーズの思考と生命科学に関する連携についての原理的連接(異質性、多様性、差異化、分化、進化システム、個体、種などの概念設定について)について多くの検討を加えた。またこれに加えて、デリダを中心とする記号・情報系の思考に対する対応、進化論やゲーム理論、コンピューター理論などと密接に展開されている英米系の思考にも目配りをおこなうため必要な目配りをなした ・以上の検討によって、生命に関する一般的な議論を、生命哲学の展開として提示することをもくろんでいる。その一端は、日本哲学会シンポジウム、ドゥルーズに関する単著、そのた論考で明らかにしているが、最終的には生命論に関する単著を来年度中に原稿としては整備することを計画している。 ・さらに以上の成果を展開するために、生命に関する知見の、社会的・倫理的意味との存在論的な関わりについて考えている。生命に関する技術の発展は、従来生命倫理というかたちでの、功利主義に基づいて、従来の人間観を前提としたものとしてしか設定されてこなかった。だが、技術の変革や知見の解体は、生命としての人間、生としての倫理や政治性という新しい次元をひらくものとして提示されなければならない。社会システム論的な知見、システム的な価値の循環に関する視点、ひろい意味でのグローバリズムをも包括する、生態学的な知見から、倫理や政治に関する議論が再度設定されなけばならない。生命概念の展開が、哲学的思考と切り結ぶ地点として、これらの議論を、生命倫理・優性学から生政治学に関する書文献などを収集することによって開始した。
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