研究概要 |
独文による論文"Eine andere kopernikanische Wende. -Die kritische Verwandlung des Be-griffs, angeboren' bei Kant"において、伝統的な「生得的」という概念の意味内容が、カントの批判期の著作においては、批判的な「ア・プリオリ」の概念に対するカント自身による性格描写である「根源的な獲得」という概念を媒介として、決定的な変容を被っている(すなわち「神」との繋がりが断ち切られている)と解釈されうることを、発展史的・概念史的手法を用いて示した。 当論文の基本的な趣旨は既に邦語論文において発表済みであるが、今回の独文論文は「生得的」の概念のかかる<批判的変容>を、批判期カントにおける周知の「コペルニクス的転回」に比肩すべき形而上学的洞察の表明として、とりわけ(カントによって捉えられた限りでの)ライプニッツの形而上学的思考との対比において、明確に位置づけた点に特色を有する。すなわち、ライプニッツの「生得的」の概念とは、世界秩序の隅々にまで神の知性が浸透していることを刻印するものとして、言わば神の側からa parte deiする世界の<構成的原理>であったとすれば、カントにおいては、同概念は、世界を無秩序なものとしてよりはむしろ或る調和的な秩序の下にあるものとして捉えたいと願う人間の要求に応え得るように、かかる世界の構成を実際に行う認識能力の布置が恰も「目的論的」に設えられたかのようだと人間の側からa parte hominis理解するための<統整的原理>へと、その位置づけを変えていると理解されるのである。
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