本年度は、紹興およびその周辺地域の思想文化の伝統を把握することに従事した。まず、平成14年9月1日から2週間かけて、該地域の文化伝統構造を総体的に把握するため、紹興市はもちろんのこと、杭州市から寧波市にかけて幅広い現地調査を行なった。紹興市では、趙之謙の所有していた庭園跡を参観し、紹興の地域伝統を体得するとともに、「趙之謙紀念館」では現存資料に関する知見を得た。李慈銘については、「蔡元培紀念館」を参観した際、李の読書記を蔡が刊行していたことを知り、自らのテーマの発展性を確認することができた。馬浮については、彼の故郷である上虞市を調査した。残念ながら彼の生家跡を発見できなかったが、地理環境に関する認識を得た。杭州市では、面目を一新した「馬一浮紀念館」を参観し、彼の生涯に関する具体的なイメージを形成することができた。また湯寿潜の「師爺」としての側面について、「紹興師爺紀念館」で新たな知見を得た。以上のような調査を成果は、「信州大学人文学部第38回夕べのセミナー」において報告した。 思いがけない副産物も得ることが出来た。今回の調査は寧波市でも行なわれたが、その結果、中国近世の文化遺跡について細かく確認することができた。寧波は「寧紹地区」と呼称されることもあるほど紹興と結びつきの強い地域であり、また、清代の思想文化を考える上では、少なくとも宋代から検討する必要がある。この点について現地で再認識することができたおかげで、本課題のテーマの基点となるような論文を執筆・発表することができた。宋代の浙東地方の思想動向と、それに対する清代の思想家の視点について考察をしたこの論文によって、来年度以降の「清代後期の紹興」に関する研究を、より視野の長いものにする見通しを立てることが出来た。
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