研究概要 |
本年度は、昨年度のフィールドワーク等を中心とした研究と異なり、文献の分析を中心とした研究に従事した。本年度に行なった研究は、以下の4点に分類できる。 まず、James H.Cole, Shaohsing Competition and Cooperation in Nineteenth-Century China (THE UNIVERSITY OF ARIZONA PRESS, 1986)を読み、19世紀中国の紹興地方に関する豊富な知見を獲得した。 次に、王家誠『趙之謙伝(上・下)』を読み進め、趙之謙の伝記研究に着手した。 以上の2点は、業績という形で結実させることは時間的に無理であったが、今後の研究の基礎固めという意味で、実に有益な作業であった。 次に、以前から着手していた馬一浮の思想資料を現代語訳する作業を進展させた。これは、論文という形にすることができたのみならず、この作業を通して、馬一浮と、彼の郷里の先賢である章学誠との思想的な異同にも気づくことができたという点で、本年度の一番の成果であると思われる。 最後に、いわゆる「宋明思想」研究に関する研究状況を整理し、今後の課題について提言する論文を発表した。本研究が対象としている清代後期を、宋代以降の近世思想史の脈絡で捉えてみたいということは、報告者の念頭に常に存する問題意識であるが、そのような問題意識をより鮮明にするために、最近5年間に発表された「宋明思想」研究関連の著作を紹介し、それらに共通する問題意識や研究史的な意義について論じた。本研究がより視野の広いものとなる上で、貴重な作業であったと思われる。 以上の研究を通して、本研究の方向性がより明確になった。
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