宗教との接点を意識しながら、戦争、平和、国際紛争に関連する文献を収集した。また、イスラームにおいてジハードがどのように理解されているかについて、イスラーム研究者に取材することによって、基本的な考え方を習得することができた。その他、広島で開催された日本生命倫理学会に参加することを通じて、国内における生命と平和の関係、とりわけ、ヒロシマが国際社会に投げかけている課題について考察を深めることができた。 こうして得られた成果の一部を、論文「戦争論についての神学的考察--宗教多元社会における正義と平和」(『基督教研究』第64巻第1号、2002年)としてまとめることができた。また、日本基督教学会近畿支部会(2003年3月)において「『一神教』概念についての比較宗教学的考察」として研究発表することができた。 「宗教多元社会」を現代社会の一つの基層と考え、本研究を始めたが、国際紛争や戦争に関する限り、様々ある宗教の中でも、ユダヤ教・キリスト教・イスラームといった「セム系一神教」に焦点を絞るべき必要があることいっそう感じさせられてきた。9.11同時多発テロ事件以降の世界情勢や、イラクヘの戦争(2003年)をめぐる経緯を見ても、戦争の正当化や動機付けのために宗教的感情が利用されたり、また、実際の動機や原因を隠蔽するような形で「宗教戦争」という表現が用いられたりしていることは明白である。 本研究では、戦争類型として、絶対平和主義、正戦論、聖戦論をとりあげ、それが一神教世界でどのように理解されているかを考察してきた。また、こうした戦争類型は、一神教世界に限らず、たとえば、戦中の日本においても利用されていたことがわかった。 今後は、一神教世界の相互理解を可能とするため基礎研究や、一神教と多神教との比較研究に重点を置きながら、本研究の目的を遂行していきたい。
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