本研究は、エクスタシーをその実践と理論の核とするシャーマニズムとラカンの精神分析について、口頭伝承論の観点から、後継者育成のシステムと理論を中心に比較研究し、次のことを明らかにすることを目的としている。すなわち、エクスタシーが後継者の育成にどのように関わるのかについて、精神分析とシャーマニズムそれぞれがどのような理論を有し、かつ実践としてはどのように行っているのか、類似と相違を具体的・実証的に明らかにする。そして、「ことば」では伝承され得ないものを、いかにして後継者に伝達しようとしているのか、また実際にそのようなことがどこまで可能なのか、シャーマニズムと精神分析の可能性と限界について明らかにする。 本年度は、後継者の養成について、数名の精神分析家へのインタビューを行ったほか、文献収集など、日本およびフランスにおいて調査を行った。フランスでは特に、シャーマニズムの研究および精神分析との双方に関係をもつ民族学者・作家であるミシェル・レリスについての調査を行った。彼は民族学者であり、作家でもあり、精神分析を受けた経験もある。ものごとの「伝達」の問題に深く関心をよせずにはいられなかった人物であるが、民族学者および作家としての彼の探求の足取りをたどることで、20世紀の中盤以降のシャーマニズム研究と精神分析理論の絡み合いがよりくっきりと浮かび上がってきた。
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