本研究の最終年度に当たっては、当初の計画通り、欧米の環境倫理学のサーヴェイを継続しながらそれを日本における理論・実践に架橋する、という研究目的に沿った成果を一般書に論文として発表することができた(裏面)。「環境プラグマティズムと新たな環境倫理学の使命-「自然の権利」と「里山」の再解釈に向けて-」と題されたその論文のまず前半では、純理論的な論争に終始しがちであった環境倫理学に対するアンチテーゼとしての環境プラグマティズムの主張・立場をコンパクトに紹介した。理論や原理をあくまで実践や問題解決の次元に定位して評価し活用する、というその基本主張は、日本での環境をめぐる様々な言説や活動にとって有益なものたりうるばかりでなく、すでにそうした姿勢に沿った理論・実践は日本に見出すことさえできる。その点を具体的に、「自然の権利」訴訟や「里山」保全をめぐる運動や言説に即して論じたのが同論文の後半の主旨である。単なる「応用」を越えた日本独自の、しかし決して単に思弁的でも復古的でもない環境倫理学の新しい方向性を探求しそれを世に問う、という本研究の最大の主旨はこの論文の発表によって一定果たされたものと考える。付随的に同論文が収められた書籍で、日本・世界の主要な環境問題・環境倫理の展開を年表化する作業にも携わったが、日本と海外の理論・実践を常に対照において考究してきた本研究の成果を、より一般にも利用しやすい形で発表することができたと考える。 3回にわたるの学会・セミナー・シンポジウム・実地見学会への参加によって、とりわけ里山や日本・世界の保全活動をめぐる現状と諸問題に触れられたことは、さらに上記の研究を現実の問題解決へと資するという課題に直面させられた。それは研究期間終了後に本研究者に継続的に課せられてた課題である。
|