三年計画の二年目に当たる本年度は、主として中世書紀学、と展望しうる諸言説の連関を確認するとともに、そこに内在する諸問題の整理を試みた。 その中心的な研究以外に、それと関連しながら行った研究は、次の三点にあげられる。 第一に、歌学に関する準備的な研究。中世書紀学をささえる基盤の一つは歌学である。また、和歌は本居宣長の学的な営みの中核をなすものであった。こうした問題意識から、和歌史、歌学史に関する文献を収集し、中世における和歌の位置づけ、日本書紀・古事記解釈と和歌の連関を中心として問題の整理を試みた。 第二に、万葉集研究史に関する研究。宣長が中世書紀学を受容するに当たって、その批判的アプローチの確立に大きく寄与したのは契沖、賀茂真淵を軸とした古典研究のありようであった。その中心にすえられているのは万葉集研究である。こうした問題意識から、万葉集研究の歴史的な展開を、とくに漢文学的な教養の導入に留意しながら、関連資料を収集し、整理した。そしてその観点からの宣長学へのアプローチを試みた。 また第三に、本居宣長が生きた十八世紀中期から後期にかけての思想史的な状況を、とくに彼の思想形成において大きな意味をなした京都時代を焦点として、比較文学的視点も取り入れつつ、把握することを試みた。
|