アントニオ・グラムシ『獄中ノート』の哲学論にかんする一連の研究のなかで、昨年度は第8ノート「哲学メモ。唯物論と観念論。第3シリーズ」に収録された覚え書、全74アイテムのうち、前半の37アイテムについて論じたが、本年度はつづいて後半37アイテムの執筆過程をたどりながら、「トウーリ特別ノート」Q10とQ11の執筆にむかっての哲学論の練成を明らかにした。内容的には、Q8「哲学メモ」後半部分の構成にそくして、「史的唯物論」の「実践の哲学」への置き換え、「哲学研究入門」とクローチェ論の執筆の進行過程を再構成した。 本研究により「実践の哲学」の語への置き換えが、マルクスの「フォイエルバッハテーゼ」の吸収による実践概念の深化と歴史主義の徹底によって進行したことを明らかにした。また、従来の研究では「トウーリ特別ノート」のブハーリン批判とクローチェ批判が、同じ比重を持つものとして理解されていたが、第一次草稿を検討することによってクローチェ批判が現代の『反デューリンク論』としての意義を持ったメインテーマであって、ブハーリン批判はそのためのたたき台という位置づけであることを確認した。 『獄中ノート』執筆プラン問題については、第8ノート前半部分は第8プランに収まる内容で展開されていたが、後半部分におけるクローチェに特化した研究の必要性の自覚が、グラムシを「トゥーリ特別ノート」の執筆に向かわせたことを明らかにし、これが第8プランからの分岐と言えるかどうかを今後究明すべき課題として設定した。
|