本研究は、古楽譜・古楽書の総合的な分析と解釈から平安時代の雅楽・声明の理論体系と実践との関係を明らかにし、平安時代における日本式の理論創成の内実を解明することを目的とする。本年度は資料の調査を中心に研究を行った。そして必要と思われる資料は複写などの形で広く収集につとめた。収集した資料のなかで「音律指南」「声明用心集」「知時調子」(宮内庁書陵部所蔵)などは雅楽と声明の理論の相互関係を考える上で、有用な資料といえる。また、これまでの平安時代の理論研究は、雅楽の唐楽を中心としたものであったため、唐楽についてはいくらか研究の蓄積があるものの、その他の種目については資料の現存状況といった基礎的な要素すら十分に把握できていないのが現状である。そこで、資料調査は在来の歌舞の系譜をひく国風歌舞等にも力点をおいた。しかし、「倭舞秘書」(宮内庁書陵部所蔵)「倭舞旧譜」(内閣文庫所蔵)など、興味深い資料も数点は確認できたが、音楽の実体を把握するに十分な資料を得るには至らなかった。国風歌舞関係の資料調査は次年度も継続して行う予定である。唐楽に関する資料では10世紀に編纂された「新撰楽譜」の目録を記した資料が宮内庁書陵部から新たに発見された。本資料は、200曲近い曲目を記していること、平安中期における各曲目の属する調子を把握することができることなどの点で、本研究を進めるにあたって極めて有用なものといえる。本資料については「宮内庁書陵部新出資料「新撰楽譜 横笛三」をめぐる諸問題」と題して学会発表を行った(東洋音楽学会第2回東日本支部例会 2003年2月)。
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