1890年代にイギリスの芸術雑誌が形成した日本イメージを考察するために、同時代を代表する『ステューディオ』誌を中心として、日本に関する記事を分析した。 『ステューディオ』誌創刊者兼編集長チャールズ・ホームは、自らの日本研究を基盤として、同誌に日本に関する記事を掲載し続けていた。その理由は、ホームが日本の芸術(美術・工芸)の伝統と革新を、工業化の進むイギリスの応用美術の指針になり得ると考えていたためであった。彼にとって日本はイギリスの芸術が見習うべき理想的な状態であったのである。このことに加え、ホームのデザイン思想の形成に、日本の芸術が重要な役割を果たしていたことを指摘した。 本研究では、代表的なデザイン雑誌『ステューディオ』が工業化社会におけるデザインの指針として日本の芸術(美術・工芸)を手本にすべきであるとする趣旨で情報を発信し続けたことを明らかにした。それはほどよい装飾性、繊細な美など、社会が工業化していく中で失いつつあった価値ということができる。1890年代のイギリスにおいて、芸術雑誌を購読していた人々が有した日本イメージは、過去の総合雑誌によって作られた「エキゾチック」の範疇にまったくとどまらない一種の芸術的ユートピアであったと考えられる。
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