本年度は、3年にわたる研究の最終年度として、昨年および一昨年の基礎作業を踏まえて作業を行なった。実績は主に次の3点にまとめることができる。 (1)2004年11月7日、日本音楽学会第55回全国大会(於:名古屋芸術大学)において、研究発表「E.ヴァレーズとアメリカの社会主義」を行なった。ここでは、1915年から1965年までの「ニューヨーク・タイムズ」紙の検討などを通じて、当時の社会的文脈の中で、ヴァレーズがどのような位置づけにあったのかについて考察を加えた。その結果、ほぼ仮説通り、当時のヴァレーズが「左翼的前衛芸術家」としで認知されていたことが明らかになった。 (2)昨年に引き続き、アメリカ時代のヴァレーズの動向について「E..ヴァレーズにおける政治的前衛と芸術的前衛の結合(2)」を東京音楽大学紀要に発表した。この内容は、上記発表とほぼ同じものだが、口頭発表とは異なりより多くのドキュメントに言及することができた。 (3)パウル・ザッハー財団における調査を通じて、大量の自筆手紙、自筆譜を検討した。とりわけヴァレーズと社会主義をめぐる問題の中でもっとも重要な作品「空間」の初期の構想メモの発掘により、これまでに全く明らかにはなっていなかったヴァレーズと左翼思想の関わりについて、より直接的な証拠を得ることができた。ヴァレーズはこの作品において、叫び声、捻り声といった素材から、「中国の赤い星」の著者エドガー・スノーのテキストをはじめとする左翼的・革命的な文章を大量に用いて、壮大な叙事詩を実現しようとしていたが、結局は完成させることはできないままに、戦後の「赤狩り」の時代を迎えることになったのだった。 以上のように今年度の成果は、本研究の仮説を裏付けるものであり、昨年、一昨年の成果とあわせて、当初の目的をほぼ達成することができた。
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