本研究遂行初年度である平成14年度においては、近年公刊をみるにいたったヘーゲル美学の二つの新出基礎資料、すなわち『1820・21年冬学期ベルリン大学での美学講義』(G. W. F. Hegel "Vorlesungen uber die Asthetik Berlin 1820/21 Eine Nachschrift." Hrsg. v. Helmut Schneider. Peter Lang 1995)と『1823年夏学期ベルリン大学での芸術哲学講義』(Georg Wilhelm Friedrich Hegel "Vorlesungen uber die Philosophie der Kunst 1823 nachgeschrieben von Heinrich Gustav Hotho." Hrsg v. Annemarie Gethmann-Siefert. Felix Meiner 1998)のテクスト分析を重点的におこない、特にこれらの文献におけるヘーゲル美学思想と諸美学思想との関連を検討する手がかりとして、ここで言及される諸美学理論をリストアップし、基本文献で東京工芸大学芸術学部にないものは購入するように手配した。 ヘーゲル美学は古典主義の美学であるとされ、ヘーゲルに先行する18世紀古典主義美学思潮とヘーゲルとの理論的関連は、ヘルムート・クーンの代表的研究以来、諸研究者の論争の的であるが、今回は"Bibliothek der Kunstliteratur" (Deutscher Klassiker Verlag)(四巻)を入手し、ヴィンケルマン、ハインゼ、メングスなどの思想家の著述における古典主義美学の理論的構造を解明するべくテクスト分析をおこなった。 また、平成十四年六月、東京大学教授高山守博士の著書『ヘーゲル哲学と無の論理』についての合評会でのコメンテーターを引き受け、とりわけ青年時代ヘーゲルの「無」「否定性」に関する哲学的考察について口頭I発表した。ヘーゲル哲学の基本構造に関して知見を深める機会を得ることができた。
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