平成14年度は、以前より継続している京都・大将軍八神社に伝わる80体の神像群について調査を実施し、その成果を東京国立博物館研究誌『MUSEUM』582号に公刊した。神像は仏教彫刻の強い影響下につくられたと考えられており、彫刻史研究では、神像を仏教彫刻の中で位置付けようとする傾向もあった。しかし本稿では、仏像ではない日本古来の神を、いかに表現しようとしたかという製作者の工夫のあとを指摘することに努めた。また、本神像群については、従来の彫刻史的な調査のほか、蛍光X線分析装置を用いた彩色顔料の分析調査も行なった。それによって、これまで古代、中世に用いられる緑色は、銅を主構成元素とする緑青のみと考えられてきたが、鉄を主構成元素とする緑色を確認することができた。これら蛍光X線分析の結果については、早川康弘、津田徹英、和田浩によって『MUSEUM』582号に公刊した。 この他、神像の濫觴期である9から10世紀造像の神像9体が残る広島・御調八幡宮、鎌倉時代在銘像数体を含む神奈川・高来神社神像群など、各地に残る神像の調査を実施し、彫刻史的な調書、写真資料の作成を行なった。また、神像は、作品の絶対数、そして造像銘記のある作品が少ないこともあって、製作時期に関する編年作業には、仏教彫刻との比較は欠くことが出来ない。本研究でも、神像と比較検討が可能な仏教彫刻の調査もあわせて実施した。これらの調査結果については、公刊に向けた取りまとめ、研究を行なっているところである。
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